【中国的AIとは何か?・その1】AIの3大要素と、中国的AI開発
AIによくある誤解:AI=頭脳、AI=プログラム、AI=ソフトウェア
AI、AIとばかり言っていると、だんだんその定義があやふやになってきます。なんでも気の利いた動きをする機械をみつけると、おっ、AIだ、みたいな・・・。みんなけっこういい加減に使っています。しかし、AIの定義とはなんなのでしょう?
AIが「頭脳」に類するものであるということは、おそらくすべての人の意見が一致するところでしょう。しかし、AIが「頭脳」というのは半分当たっていますが、半分でしかありません。AIは、「頭脳」だけでは成り立たないものなのです。
ではここで、AI技術を構成する3つの重要な構成要素を見てみましょう。
- プログラムそのもの(学習プログラム)
- データ(1. の"エサ"となるビックデータ、クラウド、学習データ)
- インフラやIoT端末(2.の採取源)
これらのどれが欠けても、今日のAIは成り立ちません。
上記に挙げた3大要素のうち、1. プログラムそのものは、まさに「頭脳」にあたるものでしょう。しかし、プログラム単体を「人工知能」と呼ぶことはありません。もしそうだとすると、例えば洗濯機に搭載されているプログラム、パソコンに入っているオセロゲームの対戦ソフトも人工知能になってしまいます。
AI=プログラム、AI=ソフトウェア、という印象を持っている人が多く、そしてそれは完全に間違っているわけではないのですが、今日の人工知能(1990年代から、2000年代のビッグデータ時代を経て開発されてきた人工知能)は、このプログラムそのものに加えて、「機械学習」そして「ディープラーニング」という機能を備えた学習プログラム/ソフトウェアのことを指します。
そして、この「機械学習」「ディープラーニング」に必要になるのが、2. データと、3. インフラやIoT端末なのです。
参考:中国において主流となるAI技術モジュール体系
中国では、主に米国で開発された3つのアルゴリズム体系と、主に10のプログラム言語が使われており、これらを組み合わせて学習プログラムがあります。
3つのアルゴリズム体系:
- 全连接网络(Full Connected Neural Networks, FCNN)全結合型
- 循环神经网络(Recurrent Neural Networks RNNs)再帰型
- 卷积神经网络(Convolutional Neural Networks, CNN)畳み込み型
10のプログラム言語:
TensorFlow / Lasagne / Theano / Caffe / Keras / MXNet / Torch / DMTK / CNTK / Neon
AIにはなぜ3大要素が必要か?
人工知能は1. プログラムが基本となりますが、それが役に立つ「知能」になるためには、当然、学習をしなければなりません。どんなにIQの高い子供でも、机に向かって勉強しなければ絶対に試験には合格出来ないのと一緒です。つまり、2. データ(1. の"エサ"となるビックデータ、クラウド、学習データ)こそが、机に向かって取り組む「問題集」にあたるものです。人工知能は、データなしには成長できません。
そして、その学習は3. インフラやIoT端末(2.の採取源)、つまり高速処理チップや大容量の通信網、クラウドを支えるデータハウス、データそのものを採取するハード面なしには行うことができません。なぜなら、2. データ=問題集は、刻一刻と更新され、それも取り込んでいかなければ、真の知能とは呼べないためです。(IoT端末にはもうひとつ制御というアウトプット機能もありますがこれは後述します。)最も身近な人工知能であるiPhoneのSiri(またはOK Googleでも、Alexaでも)が、インターネットに接続していない環境では作動しないのも、これが理由です。
もしIoTがなければユーザーからみてSiriが使えないだけではありません。Siriはユーザーからの情報を得ることができずに思考できないばかりか、交信を通じた新たな学習データをクラウドに蓄積できず、進化することができないのです。IoTのないAIは、即座に思考停止・学習停止に陥るわけです。
つまり、3. インフラやIoT端末が採取した2. データを学習する1.プログラムの総称が、AI技術なのです。
3. インフラやIoT端末がなければ、AIの判断をハードに反映することもできませんし、反映したPDCAの結果を更に反映して2. データを蓄積することもできず、AIとして成長ができません。
この1〜3は、常にセットです。AI技術は、プログラムそのものでは成り立たない、インフラやハードとの混合体なのです。質の良いデータ、そのデータを蓄積するスピードの速いクラウド、高性能のチップ、感知機や制御器としてのIoT端末などがなければ、いくらプログラムが優秀でも、絵に書いた餅であり、成り立ちません。
ここまではAIの基本的な知識のおさらいになりましたが、中国的AI――官・民・資本が一体となり社会的インフラとしてAIを受け止める土壌から生まれる、進化し続けるAI――の特質については、次回述べたいと思います。
(次回に続きます。)
ー"智能"(チノ)ベーションについてー
"智能"ベーションとは、チャイナ発のAI・ビッグデータ・IOT等領域における、個別の革新技術とそれを応用した先進ビジネス・社会モデルの総称、いわゆるベンチャー(民間企業)のスタートアップにとどまらず、政府民間共同によるPPP等、智能都市・スマートインフラ・先進政治社会モデルを含む。
"智能"ベーションと有機的につながるためには、多くの壁があります。プレゼン・資料・チャット・グループなどはすべて中国語で、毎日情報が飛び交うため、英語や翻訳では到底間に合いません。言葉がわかったとしても、PE/VC/AIの知識、中国人起業家・投資家のコミュニティに溶け込むだけの高い経験値が必要になります。
執筆者略歴
齋藤 誠一郎(さいとう せいいちろう) |
大島 真一(おおしま しんいち) |
2000年 東京大学経済学部在学中に起業、多くの日系企業の中国進出コンサルティングを行う。2005年 メディアコンテンツ関連のスタートアップ(株式会社星影通・CINETON 取締役、 34%株主)、2009年 香港金融グループ(肖建华)傘下台湾日盛証券(日盛金:5820)取締役などを経て、2014年、赛有限合伙 Seyh Limitedを設立。 上海在住(中国歴18年) 言語:日本語・中国語・英語 |
外資系証券会社、アドバイザリーファームを経て、2013年 株式会社ベストムーブを設立。企業買収・提携、資本政策、企業防衛等のアドバイザリーを行う。現在、中国スタートアップの魅力を日本に発信しつつ、資本提携・出資案件のソーシングに取り組んでいる。 東京在住 言語:日本語・英語 |
これから2045年頃まで"智能"ベーションとお付き合いしていく覚悟です。ブログをご覧の皆さま、ご関心を持ってくだった方、どうぞお気軽にご連絡ください。
Email : info (atマーク) chinoh.ai
Wechat : seisaito
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