Ai時代の日本を揺さぶる赤船(China+Innovation)= ”智能”ベーション

Ai時代の日本を揺さぶる赤船(China+Innovation)= ”智能”ベーション

世界を揺るがすチャイナ・イノベーション、"智能"ベーションは、現地起業家・VC・PE・投資家・インキュベータ―等密接なネットワークから得られる最先端の独自ソースを元に、AI、ビッグデータ、クラウド、IOT、自動運転、V2X、ニュー・リテール等、幕末日本を騒がせた黒船のごとく、AI時代の日本を騒がす赤船たちを、特に破壊的なものを中心にご紹介していきます。

【AIx巨大市場】中国企業は「中国企業」ではなく「"米中"企業」である

シリコンバレーのDNA + 巨大市場という"最適解"、
進化する"米中"企業

近年の中国企業は、実は「中国企業にして中国企業に非ず」と言えるのではないかと、最近考えています。

この20年あまりの中国企業の歴史を振り返ると、中国企業は、米国西海岸と密接に連携したワールド・イノベーターという側面があるのではないでしょうか。

この”米中”的な中国企業の歴史は、

  1. ナイキのAirMaxに代表される労働輸出時代
  2. 世界の工場へ脱皮したiPhone時代
  3. 海外技術の何をM&Aしても回収可能といえるほど巨大内需が伸びている時代(最近)
  4. これからの国策により創出されるAI時代

と順を追って進化してきたと考えられます。 

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※ 上図の「<」は、中国企業の”米中”ボーダレスの度合を指す

 

現在の中国企業を形容するならば、「米国のDNAを持ち、さらにそれを中国という巨大市場、資本、人財によってレバレッジをかける巨大な存在」といえるでしょう。これが日本勢が相手にしなければならないプレーヤーの正体なのです。

 

それでは、以下、中国企業の歩みを順を追って見ていきたいと思います。

 

第1ステージ:労働力をベースにした輸出モデル
(1995年~2005年頃。輸出がメイン)

このころの中国企業は、安い労働力を求めて外資が中国に工場を作り、中国の労働者が手作業などを分担していました。

ナイキのシューズというと米国のブランドですが、中身は全部中国で作っていました。中国に工場がいくつもあり、2ドルのシューズのうちたった2セントのみが中国に支払われるのだ、という朱镕基(清華大学→MIT出身の中国国家主席)の演説は有名です。

ナイキのシューズは、当時、同じものが安い値段で大量に出回り、コピー製品と言われていましたが、実はこれは、工場の受注者がオーダーよりもちょっと多めに作り、流出した製品を安い値段で別に市場に売る、ということで儲けていたのです。

さて問題です。果たして、このナイキのシューズの本物と偽物の違いは一体何なのでしょうか?

答え。品質はまったく同じです。米国企業のリテール店舗で売られているか、いないか、その違いしかないと言えるでしょう。

米中企業のボーダレス化はこの時代から始まりました。

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第2ステージ:電子サプライヤ群の世界集結
(05年~15年。内需+輸出)

お手持ちのiPhoneやiPadをひっくり返してみてください。裏に"Designed by California Assembled in China"とありますね。国際分業がしっかりと現れています。これは前述の「ナイキのシューズ」が少し進化したものだと言ってもいいでしょう。

www.engadget.com

 

iPhoneは、世界中の優秀な電子部品・サプライヤがすべて中国で取りまとめられ集結した製品です。

gigazine.net

ただし、当時、部品のほとんどは海外のもので、中国製のものはほとんどありませんでした。

さて、ふたたび問題です。iPhoneは中国製でしょうか? それとも米国製でしょうか? 

答えは、どちらでもありません。米中が中心となって協業した世界のCo-Brandと言えそうです。

 

第3ステージ:CBO(チャイナ・バイアウト)時代
(2010年〜現在。内需パワーをテコにした成長)

この時代から、労働力で外貨を稼ぎ肥大化した中国国内の市場がモノをいい始めます。あるイノベーションが起こったとき、どこでその製品を売りますか? どこで株式価値の最大化を図りますか?

米国と日本を足した台数のさらに1.3倍という中国の自動車市場を見れば、最高の技術を買い占めて最大の市場とくっつけるというグローバル・プレーの最適解は誰の目にも明らかです。それが"CBO(チャイナ・バイアウト)”の考えです。

特に世界的にマネーサプライが急増した金融危機以降2010年ごろから、どんな高値でも採算がとれるM&Aブームが到来しました。国内消費市場が外にまで拡大し、日本での"爆買い"が行われ始めたのは2014〜15年頃からでしょうか。 

 

先ほどのスマートフォンを見てみましょう。当初、日本の部品がほとんどであったはずのiPhoneですが、これが2017年になると、アップルサプライヤーとして掲載された269社中、台湾企業は71社、米国企業は60社、日本企業は20%未満、たったの55社です。

www.nikkei.com

apple.srad.jp

 

時間が経つとコピーされたり、中国資本に買収されたり、人や機械や資本が現地で徐々に入れ替わって中国化する動きが着々と進み、現在では、Huawei、Oppo、VivoそしてXiaominなどアップルのDNAをもった中国メーカーがアップルを追い上げています。

www.counterpointresearch.com

 

この変化の背景には、伸び続ける中国市場から来る大きなオーダーに部品サプライヤが逆らえず、アップルやサムソンから中国系に乗り換えざるを得なかったり、CBO買収金額の誘惑に逆らえない、という理由があると思われます。

GoogleやFacebookのような世界トップ企業でさえ中国には入れない。このルールをよく理解する米系企業は、フェアプレーでないといって警戒する日本と対照的に、資本でも中国と手を組み始めました。そして、中国企業はそのことを理由にして米系のスタートアップに投資し、米国企業の所有者になってゆきました。

例えば、テスラにテンセントが出資したことによって、中国市場にテスラが入ることができました。

また、以前、中国のスクーターメーカーのNinebotは、セグウェイの技術を中国で特許侵害していると訴訟を受けていました。訴訟が進むうちに、中国はファンドを通じてセグウェイ自体を買収し、被告側と原告側を統合することで問題を解決する、という驚くべき解決を行いました。

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こういった中国資本によるM&Aの動きの裏には、中国に身売りすることで中国市場も手に入る、という構造があります。例えば、私の友人が中国のある資本グループに属しているのですが、米国NasdaqのAI関連の上場企業を買収しました。もちろん、米国企業側にとっては中国資本化することで中国進出を果たせる、という思惑があるわけです。

さて、みたび問題です。中国企業に買収されたAIの会社やセグウェイは中国企業でしょうか? 米国企業でしょうか? 

答えは、どちらでもあります。国境のないマインドが生んだ米国DNA+中国市場、という、ある意味最強のグローバル企業なのです。

 

第4ステージ:AI・モビリティ・IoT時代
(2018年〜今から5年後を含む未来。インフラ優位時代)

第1ステージで労働力と輸出という形で世界デビューし、第2ステージで工場サプライヤ群の拡充、第3ステージで内需の成長というドライブ・フォースが加わった中国企業。現在進行中の第4ステージでは、国策によるAI/EA/インフラ優位という時代に突入します。

テスラのイーロン・マスクがEVの製造で困難に直面した理由は、少ない販売台数のなかで全ての部品需要の十分なボリュームを確保しきれず、サプライチェーン全体のスケールアップができなかったためです。

time.com

中国が、これを国策で解決しました。軍事関連需要や強力なEV国策により後押しされたことにより、中国の工業サプライヤは、米国ベンチャーが手放せない存在になっているばかりか、国内で自らの手による中国EVカーをいくつも生み出すまでになりました。

規模の経済があることで、生産が自動化し、製品コストが下がり、サプライチェーンが実現する。こうした膨大なEV市場創出の国策がなければ、少量生産という製造のデスバレーに陥ったまま、テスラでさえ育たなかったかもしれません。

いま、EVメーカーが頼っているサプライヤは愛知県にあるのでしょうか? 違います。もうお分かりかと思いますが、それはナイキやiPhoneのDNAを持った、中国の電子サプライヤーたちです。

これは同時に国内消費市場の刺激(公共政策的効果)でもあります。V2Xインフラなど国家需要によってバラマキをすると同時に、産業を育てるのです。シューズだけでなく、世界中の携帯電話の部品、パソコンの部品、家電、世界の工場とまで言われるようになった中国のサプライヤは力を付け、多くのEV製品の供給者、AIのIoTサプライヤになろうとしています。

こうした豊富なサプライヤ環境、巨大市場、優位な政策と5G V2Xといった未来インフラが整うことで、AI・EV・モビリティ開発の格好の条件が揃うわけです。 

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一方、米国は?

さて、ここまで中国企業というものがどのようにその形を変えてきたかという流れを見てきました。

一方で、米国の現状を見てみましょう。

www.sankei.com

wired.jp

中国市場にある、安くて幅広いサプライヤー、巨大市場の魅力、最新のインフラの、いずれも米国市場にはないでしょう。あるのは基礎的技術のみです。

AIは、人工知能ですから学習をしなければなりません。アプリケーション・レベル、ビジネスレベルで社会に実装され、得た情報をフィードバックして再学習するサイクルがなければ、机上のプログラムで終わります。

つまり、AIビジネスに本当に必要なのは、天才エンジニアに加え、エンド(伝統経済における実体プレーヤー)、IoT化を実現するハードウェアサプライヤ、国家インフラ、ビッグデータ(膨大な数のインターネット人口)なのです。それがどこにあるのか・・・。ここまで読んできた読者の皆さんにはもう明らかなことでしょう。

 

これから何が起こるのか。ナイキの時代には想像もできなかった大きな逆流が始まろうとしています。 強い政策リーダーシップとシリコンバレーのDNAをふんだんに持ち帰ったスタートアッププレーヤーが、拠点をシリコンバレーと中国の2か所に移さざるを得ないのです。こうしたスタートアップが次々に集結する中国は、世界で最初かつ最大のEVのメッカになろうとしているのです。

今後、日本企業が優れたスタートアップを探そうと米国に行っても基礎技術しか見つけられないでしょう。逆に、中国には国家レベルの社会インフラのなかで実装されたリアリティあるAIがあります。米国のDNAが、米国本土よりも豊かな土壌に育っているのです。

 

今後、ビジネスを輸入する元は、シリコンバレーより中国になるのかもしれません。 

 

 

 

ー"智能"(チノ)ベーションについてー

"智能"ベーションとは、チャイナ発のAI・ビッグデータ・IOT等領域における、個別の革新技術とそれを応用した先進ビジネス・社会モデルの総称、いわゆるベンチャー(民間企業)のスタートアップにとどまらず、政府民間共同によるPPP等、智能都市・スマートインフラ・先進政治社会モデルを含む。

"智能"ベーションと有機的につながるためには、多くの壁があります。プレゼン・資料・チャット・グループなどはすべて中国語で、毎日情報が飛び交うため、英語や翻訳では到底間に合いません。言葉がわかったとしても、PE/VC/AIの知識、中国人起業家・投資家のコミュニティに溶け込むだけの高い経験値が必要になります。

 

執筆者略歴

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齋藤 誠一郎(さいとう せいいちろう)

大島 真一(おおしま しんいち)

2000年 東京大学経済学部在学中に起業、多くの日系企業の中国進出コンサルティングを行う。2005年 メディアコンテンツ関連のスタートアップ(株式会社星影通・CINETON 取締役、 34%株主)、2009年 香港金融グループ(肖建华)傘下台湾日盛証券(日盛金:5820)取締役などを経て、2014年、赛有限合伙 Seyh Limitedを設立。

上海在住(中国歴18年)

言語:日本語・中国語・英語

外資系証券会社、アドバイザリーファームを経て、2013年 株式会社ベストムーブを設立。企業買収・提携、資本政策、企業防衛等のアドバイザリーを行う。現在、中国スタートアップの魅力を日本に発信しつつ、資本提携・出資案件のソーシングに取り組んでいる。
東京大学経済学部卒業。

東京在住

言語:日本語・英語

これから2045年頃まで"智能"ベーションとお付き合いしていく覚悟です。ブログをご覧の皆さま、ご関心を持ってくだった方、どうぞお気軽にご連絡ください。 
f:id:chinnovation:20180511120147p:plain   Email : info (atマーク) chinoh.ai
f:id:chinnovation:20180511120140p:plain   Wechat : seisaito 
 f:id:chinnovation:20180511120717p:plain YouTube- Chinnovation-智能ベーション 

 

  "智能"(チノ)ベーション(=China+Innovation)は、現地起業家・VC・PE・投資家・インキュベータ―等密接なネットワークから得られる最先端の独自ソースを元に、幕末日本を騒がせた黒船のごとく、AI時代の日本を騒がす赤船、チャイナ発のイノベーションの数々を、AI、ビッグデータ、クラウド、IOT、自動運転、V2X、ニュー・リテール等、とくに破壊的なものを中心にご紹介していきます。